2009年8月26日 (水)

コラムNO.5 観光とマインドフルネス(その1)「マンネリズムとリピーター」

コラムNO.5 観光とマインドフルネス(その1)「マンネリズムとリピーター」

大賀英史(おおが ひでふみ)
ヘルシーライフクリエイト・リサーチ&コンサルティング合同会社 代表社員

 
観光地と地域経営のあり方を考えるにあたり、まず、今の観光のあり様を、旅行者の視点から考えてみよう。
旅行者は名所旧跡を巡るのに忙しく、宿泊先の風呂では日頃の、というより、当地に来るまでの疲れ、着いてから移動の疲れを癒す。最終日は土産物屋には必ず立ち寄り、あれもこれも買っていく。電車に乗る前に缶ビールとおつまみを買えば、あとは安心してまっすぐ帰路へ・・・。

その土地にしかないものを観光したはずなのに、旅の記憶というと、鮮明に思い出すのは飲み食いと土産物のことばかりである。一方、地元にとっては、それらの時間が何より貴重だ。宿の予約が入った後にできることは、土産物やで伝統工芸品や名物を買ってもらうか、旅館以外での飲み食いをどれだけしてもらうかが、“外貨”を稼ぐ絶好の機会。「またお越しください。」との笑顔に、こちらも愛想で応じる。しかし、期待を裏切り、大半はリピーターにはならない。なぜだろう。

そのような旅行でも楽しさはある。乗る電車、土地、食べ物、いずれも、とりあえずは「新しい刺激」になるからだ。でも、どこか満たされない気持ちは、次の旅に期待する。しかし、そこでも満たされず、さらに旅先を変えていく。旅で訪ねた場所は増え、制覇していく気持ちは満たされるが、同じ場所は二度とはいかない訳だ。

人々は、日常生活のマンネリズムから一時的に離れたいと思い、旅に、日常と違う刺激、いつもと違った頭の神経回路が使われることを期待する。一方、土地の人にとっては、観光名所は子供のころから知りつくした場所である。連日の来訪者への対応が子供のころから習い性になり、旅行者への好奇心が薄れ、マンネリズムに陥り易い。旅人を迎える側の気持ちは、すべての旅行者に伝わる。マンネリズムから解放されたい人に対するマンネリズムの対応。ここに、旅行者と観光地の人の気持ちがすれ違う原点がある。

観光地における商業的対応のパターン化に加え、IT化がさらに旅情を奪っていく。今の時代は、宿を選ぶためにインターネットで検索すると、旅館のお風呂や食事の写真が見られ、宿泊された方の感想やクレームやスタッフの回答がすべて読める。ネットでの観光地のイベント情報には、実際には見られないほどに美しい四季折々の景色が「鑑賞」でき、付近を散策した方のブログまで目を通せば、隠れた見所や喫茶店の珍しいメニューまで、デジタル写真と共に詳しく解説されている。実際に行ったら「ここがネットにあった場所か」とせっせと確認し、事前に得た情報と実際が少しでも違っていれば、ネットでクレームを書いてやるぞと構えてしまう。また「ブログに載せよう」と特派員報告の資料づくりに忙しくなる。もはや未知なる土地への期待と不安は持ちようもない。実際の旅は、ネットで得た事前情報と現実との “照合作業”になっている。

日常の繰り返しにより事前に予想できてしまうこと、また予想したくて情報を集めてしまうこと、これは人間らしい能力である。予想出来ること、予想したがることは必ずしも悪いことだけではない。以前は、情報を握っている添乗員や幹事さんにいちいち聞かなくては動けない、子供のような行動だった。しかし、今や、近くのコンビニの場所や旅館の露天風呂は何時から何時までが貸し切りで・・・といったこまかなスケジュールまで出発前からわかり得る。土地の情報やスケジュールへの安心感から、食事までの時間に何気なく散歩してみると、ふと現れた路地の眺めに土地の人々の暮らしが見える。朝市で余分に野菜を詰めてもらったり、道を尋ねたら途中まで一緒に歩いてもらったりと、ちょっとした発見や親切に、「ああ旅に来てよかった。」と心が満たされる。そんな醍醐味を体験出来た人は、その土地へのお礼として、形に残る土産を買っていく。ヒトの脳は、あるものを想像しただけでも、それを実際に見た時に刺激される神経と同じ部位が活性化されるという。日常、それを見て「あのおばさんはどうしただろう」といった想像しながら、旅先を「再訪」しているのである。想像だけでは我慢できなくなると、今度は本当に訪ねる気持ちが湧いてくる。2回、3回と訪ねるごとに、おばさんとの再会を喜ぶ感動と、その地での移動や購入が迷わずに出来るようになることが妙に嬉しい。普通の旅行者は知らない店や農家で果物を買っては宅配便で知人に送る。その人は、その観光地にとって、大のお得意様になっていく。

人は、パターン化で安心し、IT化で不安を消しつつ、予想できなかった出来事、ふとしたふれあいに感動する。それを求めてパターン化しようとする。このような、一見、矛盾に満ちていると思える心理にこそ、初めて訪れた旅人が、急ぎ足で旅する人になるか、あるいはその地のリピーターになるかの別れ道が潜んでいよう。
では、観光地としては、それにどう対処していけばいいか、その参考になると思われるマインドフルネスという考え方とともに、次回、詳しく紹介してみたい。

<プロフィール>

大賀英史(おおが ひでふみ)

ヘルシーライフクリエイト・リサーチ&コンサルティング合同会社 代表社員
独立行政法人国立健康・栄養研究所 健康増進プログラム協力研究員

東京大学教育学研究科で認知科学、同・医学系研究科博士課程で公衆衛生学(精神衛生学、疫学・統計学、国際地域保健学等)を研究した後、長野県看護大学(リサーチレジデント)、独立行政法人国立健康・栄養研究所(室長)を経て、現在に至る。

【電話番号】070-6995-0709
【メールアドレス】info@healthylife-create.ecweb.jp
【URL】http://www7b.biglobe.ne.jp:80/~kenyuu-juku/

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